京都で「大文字焼き」ということばはなぜか禁句のような雰囲気を持っています。
「大文字焼き」と聞くと無性にいやがるひとは確かにいます。
「大文字焼きって・・・大判焼きとちゃうねんから」とか言うて。
「大文字送り火」「五山の送り火」というのが現在の公式の呼び方です。
まとめて「大文字五山送り火」とも。
音のない静かな宗教行事ですから、送り火のほうがイメージにも合っていますね。
「焼き」ではなんだか威勢がいいというか騒がしいような...。
ただし、江戸時代には京都でも「大文字焼き」と呼んでいたという記録があります。
昭和になってからも多くの京都人が大文字焼きと呼んでいます。
あんまりムキになって「大文字焼きではない!」というのはあさはかで大人げない...。
歴史的には大文字焼きが先。由緒正しいのは「大文字焼き」でしょう。
ことばは変化するもの。
昔は「大文字焼き」が正解で、「送り火」は明治以後に浸透しはじめた呼び方。
「五山の送り火」となるとかなり最近で、昭和以降でしょう。(戦後という説もあります)
公の立場でない京都の地元の人は平気で「大文字焼き」という人も多いのです。
京都西陣生まれの入江敦彦氏の京都本『京都人だけが知っている』の中にも「大文字焼き」と書かれています。
祇園出身の杉本彩さんも「大文字焼き」と呼んでいます。
松本清張氏の小説「火と汐」の中でも、大文字焼きと五山の送り火の両方の表記があるが、大文字焼きが優勢。
「大文字焼き」をいやがる人は、わりとここ最近の京都人かもしれません。
歴史を学べば、「京都に大文字焼きなんておまへんで」などというシニカルな発言はできなくなるはずです。
京都の大文字焼きが全国に広がり、各地の大文字焼きとなり、そのあとで本家の京都がハシゴを外して、大文字焼きと呼ばなくなったという経緯でしょうか。
こんなニュアンスかも。
『"超"地元民は「別にどっちでもいーやん」と言いますが、出没する"自称"京都マニアとか、京都ブランドを鼻に掛ける最近引っ越してきたヨソサンが怒ります』
(yahoo!知恵袋より引用)
『8月に入りまして「五山の送り火」の呼び方でドヤ顔するおっさんが出没する季節になってまいりました。』
(ツイッターより。)
結論としては、
「大文字焼き」も「大文字送り火」もどちらも間違いではない。
公式には「大文字送り火」。
「大文字焼き」は通称・俗称。
そもそも会話では、「五山」も「焼き」もつけずに単に「だいもんじ」という人がもっとも多いと思います。
妙法も船形も「だいもんじ」!(すごくテキトーです)
あるいは敬称をつけて「だいもんじさん」(これはけっこう年配の方か)。
あるいは単に「送り火」という人も多いです。
ニュースで「大文字焼き」ときくのは違和感があります。俗称だから公的なものには使いません。
「大文字山焼き」というと、完全にペケです。
若草山のような山焼きではないということで。
ちなみに大文字焼きと呼ぶ行事には次のようなものがあります。
● 秋田県大館市の大文字まつりの鳳凰山大文字焼き。
● 神奈川県足柄下郡箱根町で行われる箱根大文字焼き。
● 静岡県三島市で行われる三島大文字焼き。京都の2倍の大きさだそうです。
● 山梨県笛吹市一宮町の大文字焼き。
● 栃木県佐野市の三毳山(みかも山)で行われる三毳山大文字焼き。
大文字焼きは関東に多いようです。
だから関東の人は自然に大文字焼きと言ってしまうのでしょう。
でも、箱根大文字焼きの始まった大正時代には、まだ京都でも「大文字焼き」のほうが優勢だったはず。(五山送り火という名称はまだ存在しません)
ですから、京都にならって大文字焼きという名前をつけたわけで、大文字焼きという呼び方を関東の人に広めた張本人は本家京都だとも考えられるのです。
参考になる本:
京都の祭り暦/森谷 尅久
京都大不満/嵯峨 徳子
京都人だけが知っている/入江 敦彦
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https://bigkarasu.com/daimonjiyaki.html大文字焼きと大文字送り火 どっちが正しい?